●福祉有償運送

  新制度設計論議が始動

  タクとNPO“協働”求める

 国土交通省は21日、NPO等によるボランティア福祉有償運送検討小委員会(委員長=山内弘隆・一橋大学商学部長)を設置、タクシーとNPOボランティアの福祉輸送の新たな仕組みづくりの検討をスタートさせた。宿利正史自動車交通局長は冒頭、「タクシーとNPOの両輪相まって安全・安心・安定的に社会のニーズにこたえる仕組みを年末まで目いっぱいに議論してほしい。その結果によって法整備も考えたい」と“協働”の制度設計を描くよう提起。同小委は新制度設計が必要という点では一致したものの、セダン特区の全国化ではタクシー側が反対を表明した。今後、12月のとりまとめに向け、安全確保措置、利用者保護、タクシーとNPOの共存――を重点に集中審議する。

 小委設置のきっかけは、構造改革特区評価委がセダン特区の全国化について年末までに国交省に回答を求めたことによる。同省は福祉輸送の青写真を改めて見直す方針を打ち出し、自動車交通局長の私的懇談会として「地域住民との協働による地域交通のあり方に関する懇談会」を設置、その下に同小委を置いた。

 宿利局長は「セダンに限らず福祉輸送全体の仕組みを検討し、適切な方向を見出したい」と述べた。山内委員長は「欧州では規制緩和後のタクシーの重要な役割はSTSに特化していると聞く。年末まで短いが、できるだけ議論したい」と述べた。

 同小委では検討課題に@安全の確保措置=運転者に必要な要件、運行管理体制等の現行制度の要件の検証▽セダン車両まで使用車両を拡大する場合の追加要件▽安全確保措置状況のチェックのあり方A利用者保護=識別表示など白タク行為の予防措置▽損害賠償措置▽事故発生時の対応▽苦情対応Bタクシー事業者との共存=タクシー事業との制度的整合性の確保――をあげ、この日、サービス評価できる方法も項目に加えた。

 発言は、タクシー側からあり、関淳一全国福祉輸送サービス協会会長代行が福祉タクシーには実際セダン型も多い実態を示し、川村泰利同協会副会長が自社の宮園自動車の一般タクシーによる障害者割引の状況を報告した。関氏はまた、「タクシーは最賃も保障できないほど苦しい地区もあり、福祉で生き残りをかける会社が増えている。急増する軽福祉の限定事業者も成り立つ形をまず作るべきだ。セダンを認めるにはまだ早い」と訴えた。大分県タクシー協会の漢二美会長(全福協副会長)も「地方のタクシーも公共交通に使命感を持って取り組んでいることを理解してほしい」と強調した。

 全自交の待鳥康博書記長は「制度を本当に見直すにはち密な統計に基づいた議論が必要だ」と指摘した。

 NPO側からは坂口郁子たすけあい大田はせさんず理事長が「NPOは目の前に移動困難者がいるから収支に関係なく運ぶ。現在の80条は緊急時の条項で危うい。大事なことをやっており、新しい仕組みを考えてほしい」と述べた。島津禮子市民協専務理事代理は「移動困難者に合わせた車両を使える仕組みにしてほしい。車両が限定的だと今後もグレーのまま続ける恐れがある。市町村が運営協を作らないと違法状態がはびこる」とセダン全国化を訴えた。

 秋山哲男首都大学東京大学院教授は@移動困難者の潜在ニーズを含め戦略を立てるA短期と中長期対応に分け、中長期には自治体の地域交通計画の枠組みも踏まえ検討するB例外規定の80条から脱却、生存権や生活権の視点から枠組みを考えるCセダン特区全国化がタク需要を侵食することを恐れるタク業界を踏まえ、国と自治体の補助制度を創設する――を提起した。

 自治体からは枚方市の藤澤秀治福祉部障害福祉室長が「福祉輸送ではホームヘルプからの参入者とタクシーからの参入者ではハードルに差があり不公平」と指摘した。

東京交通新聞 2005.9.26(月)