●福祉有償 「セダン特区全国化」平行線

  大臣折衝の可能性も

 構造改革特区制度の「福祉有償運送セダン型車特区」の全国化問題では、政府・内閣側と国土交通省の間で折り合いがつかず、大臣折衝までもつれる可能性が出てきた。特区問題での数次の折衝は異例。特区評価委員会(委員長=八代尚宏・国際基督教大学客員教授)は20日、国交省を再度ヒアリングしたが、前回(7日)と同様の議論が展開され、物別れに終わった。このため局長級ヒアリング・折衝が今週にも行われる。八代委員長は「この1年、セダン特区に事故や白タク営業など弊害はなかった。懸念だけでは猶予は認められない」と強調、全国展開に合意できなかった場合、大臣折衝に持ち込み決着を図る考えを示した。

 セダン特区全国化に向けた国交省ヒアリングは、この日、前回の田端浩自動車交通局旅客課長らに加え、松尾庄一同局次長が出席。松尾次長は「安全確保は行政の責任。セダン特区を今判断するには調査が不十分だった。各地で実施されている運転者研修などに実効が出ているか調べたい」と主張する一方、「交通バリアフリー法の見直しを絡め、タクシーとボランティアの共存を軸に福祉輸送全体の仕組みを見直したい」と述べ、今後のスケジュール(別掲)を提示した。

 これに対し、評価委メンバーから、疑問や不満が続出。安全面には「タクシーより危険な点が立証されていない」(八代委員長)、「交通事故か乗降トラブルか、福祉車かセダンなのか調査は踏み込んでいないのに、セダンに優位性をみるのはおかしい」(白石真澄・東洋大助教授)、白タク問題では「予防のために運営協議会制度を設けているはず」(白石氏)、「車体ステッカーをよりわかりやすくするなど部分的な対応で足りる」(八代委員長)など。

 国交省は再調査に半年をかけるとしたが、「ボランティア輸送のニーズの高さにこたえるのも行政責任。走りながら仕組みを見直していけばいい」(檜木俊秀・内閣官房参事官)、「今困っている人を満足させるスタンスはないのか。タクシー業界への配慮が濃厚だ」(白石氏)、「要介護・要支援度が低い人はセダンのほうが使いやすいのは明らか」(山田孝夫・全北海道東川町長)、「ゼロベースで調査する必要があるのか。バリフリ法改正の中身がわからないのに、それまでセダン特区の扱いを待つことはできない」(八代委員長)などの意見が出た。

 やりとりは終始、似通った質疑応答が続き、最後に八代委員長は「国交省の説明を認めてしまっては、特区に弊害がなかった特区を全国展開するという省庁一律の閣議決定のルールを壊すことになる。今後の調査を尽くすのは結構なこと。事故などの可能性のためだけにズルズルと現状を凍結するのは受け入れがたい」と、国交省の主張を退けた。

 3回目のヒアリングに金澤悟自交局長が出席予定。国交省側が引き続き反対姿勢を貫くか、一転して“手打ち”となるか予断を許さない情勢。評価委は官邸直轄組織。大臣折衝でも難航した場合、最終的には小泉首相の裁定に委ねられる見通しだ。

東京交通新聞 2005.7.25(月)