●NPOの有償送迎なぜ進まない?

  協議の場 自治体が開かず

 NPO法人などの非営利団体が高齢者や障害者らを有料で送迎するサービスに、合法化への道が開かれて半年以上たった。しかし、活動団体は全国に約3千あるのに、9月末までに許可されたのは37団体しかない。自家用車を使って料金を取ることが道路運送法違反になる可能性があるとして「自タク」行為と批判されてきたが、ニーズに応じたサービスが利用者に認められ、ほぼ黙認されてきた。中途半端な状態を解消するため、国土交通省は3月、ガイドラインを作成、一定の条件を満たせば許可を受けられるよう整備した。それでも許可団体が増えないのは、なぜなのだろうか。

(石井暖子)

解く

高齢・障害者の支え 認識不足

 国交省のガイドラインでは、次のような条件が設けられた。対象は、移動が困難な要介護者、要支援者、精神・身体・知的障害者らで会員登録した人。車両は車いすのためのリフト、スロープなどを設けた自動車。運転手は普通第二種免許を持っていることが基本だが、難しい場合は安全講習を受講していること、などだ。

 許可の手続きの中で、大きな壁となっているのが市区町村か都道府県が必ず設置することになっている運営協議会だ。設置できない地域が多い。

 メンバーは自治体の長や職員、学識経験者、交通機関の代表などだ。運営協議会で協議されなければ、NPOは運輸支局への許可申請ができない。ところが、9月末現在、福祉輸送の運営行儀会を設置したのは全国で14地域のみ。ほとんどが、すでに構造改革特区で実施していた地域で、今年度新設したのは4地域だけた。

 NPOが条件を満たす努力をしても、多くの自治体が運営協議会を設置しないため、足止めのされている状況だ。

 「移動サービス市民活動全国ネットワーク」の鬼塚正徳事務局長は「自治体の担当者の意識が低く、協議会の重要性を理解していない」と話す。

 縦割り行政が交通、介護、高齢者、障害者など多岐にわたる問題に対応しにくく、担当部者が決まりにくいという。

 協議会で必要性と条件を満たし認められると、NPOは運輸支局に申請、運輸支局長が許可する。国交省は介護保険制度が見直されるのに合わせ、許可取得は05年度中が望ましいとしている。

 過渡期ながらの混乱も起こった9月下旬、宮崎県内のあるNPOが「白タク」行為ではないかと指定され、警察署が事情確認に乗り出した。このNPOは許可申請を準備していたが、町はまだ運営協議会を設置していなかった。

 国交省は取得期限までは猶予期間として、悪質でない限り摘発などはしないことにしている。しかし、警察には伝わっていなかった。NPOは「無料だったが、会員である高齢者を送ったあと、介助役の孫だけを乗せていたことなどが誤解を招いた。」と反省し、会員を乗せる時以外は、送迎を示すステッカーをはずすようにした。

 県内のNPOを結ぶ「移動サービス・ネットワークみやぎ」の小林睦さんは「運輸支局と警察の連絡ができていれば、支局の指導で済んだはずだ」と話す。

 まずは自治体が協議会を設置することが大切だが、NPOの許可だけでは解決しない。

 交通エコロジーモビリティ財団の沢田大輔研究員によると、北米や英国では、障害者の差別問題や人権の観点から、公共交通の一部と位置づけたシステムが確立している。「交通バリアフリー法の見直しを進め、福祉、交通、まちづくりの部署が横断的に対応する必要がある」と話している。

調べる

地域別の検討 県が導く

 運営協議会の設置について、神奈川県の取り組みが注目されている。県地域福祉推進課は5月、「かながわ福祉移動サービスネットワーク」(河崎民子代表)の要望をきっかけに、NPO送迎の実態を調査。各市町村で充実度にばらつきがあり、市町村を越えて利用するケースもあったため、横浜、川崎、大和、3市を除き県内を6地区に分けて設置するように誘導した。

 各地区の事務局は市町村が1年ごとに担当し、共通メンバーは県が仲介する。また、セダン型の一般車両を利用する特区が認められる見直しだ。

 大阪府はこの方式を参考に、各市町村に地区割りを提案し、調査中だ。

論じる

タクシー業会の反発も

 NPOの有料送迎許可はタクシー業会から反発の声もある。特に、福祉タクシーは高齢者や障害者を対象にした事業なので、競合を心配している。いわゆる介護タクシーとは、介護報酬の対象となる事業で、福祉タクシーに含まれる。

 NPO側は「必要なら自宅のベッドから外出先のベットまで運び、付き添い介助もするので、タクシーとはニーズが異なる」と説明する。

 秋山哲男・都立大大学院教授(都市交通計画)は「需要は多く、NPOとタクシーが共存して頑張っても足りないほとだ。利用者の通院や要介護状態など生活すべてを考えた交通システムが必要だ」と話す。

移動サービス市民活動全国ネットワーク

http://www1.odn.ne.jp/ido-net/

福祉交通支援センター

http://fukushikotsu.jp/

かながわ福祉移動サービスネットワーク

http://idou-net.cool.ne.jp/

関西STS連絡会

http://www.e-sora.net/k-sts/

朝日新聞 2004.12.8(水)