●看護師・介護士受け入れ比とFTA合意

  人数白紙の状態 日本側、厳しい条件堤示

 日本とフィリピンとの自由貿易協定(FTA)交渉はチリ・サンティアゴで18日にあった閣僚折衝の結果、大筋で合意に達した。この結果フィリピンから看護師・介護士を日本に受け入れることが決まった。しかし、実際の受け入れ人数は白紙の状態だ。FTA契機に日本の労働市場開放が進むかどうかは、今後の議論に委ねられている。

 看護師、介護士の受け入れ決定をフィリピン側は歓迎している。介護専門学校の数は約700。学校経営者のエルマ・ファドリさんは「長い間待っていた。介護士にとって日本はとても有望な市場」と喜ぶ。昨年の全国の学校卒業生は約5万人だが、海外で就労できたのは約1万8千人。「私たちの水準は高い。人数制限を課さないで欲しい」と語る。

 日本側では、少子高齢化の進展から人手不足を訴える現場の声も多く。地域限定で規制緩和を認める政府の構造改革特区で「外国人の受け入れ特区」の提案も出ている。

 しかし、実際の受け入れ条件は厳しい。日本語の習得や日本の国家資格の取得を義務づけ、人数枠も設定する。厚生労働省や日本看護協会は最後まで「安易な受け入れは国内の医療や介護の水準低下を招く」との主張を譲らなかった。

 受け入れ人数については、フィリピン側に数千人を望む声があるのに対して、厚労省が想定するのは年間各100人程度。参入を検討する民間の派遣関連企業から「あまりに小規模でビジネスとして成り立たない」との批判の声も上がっている。

 フィリピン側の要求のもう一つの柱だったはずの農水産物分野は、先送りが目立つ。最大の懸案は、現行270%の砂糖の関税撒発問題だった。寒冷地や離島の雇用を支える砂糖は農水省にとって「コメ、でんぷんと並ぶ最重要品目」(農水省幹部)。「4年後の再協議」で合意したが、実質的にはゼロ回答だ。

 水産物で5年以内の関税撤廃が決まったのは輸入量が少ないキハダマグロとカツオ。輸入実績が多いクロマグロなどは先送りだ。

 一方、日本側の感心項目だった鉄鋼製品の関税撤廃は実現。日本鉄鋼連盟の三村明夫会長は19日の記者会見で「東南アジアへの鉄鋼輸出で非営に大きな先駆けになる」と評価した。

 投資分野では、フィリピンが外資参入を禁じている建設、通信などの規制緩和は、日本側の要求がほとんど受け入れられないまま。

 今回の合意は並行するタイ、マレーシアとのFTA交渉にとって先行する見本となる。フィリピンとの間で実現できなかったことは、他国との交渉でも同じような決着になる可能性が大きい。

朝日新聞 2004.11.20(土)