●年金や手当充実が先

  藤井克徳 日本障害者協議会常務理事

 「我が国十何万の精神病者は、実にこの病を受けたるの不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬる者と言うべし」

 精神医学の父といわれる呉秀三東大教授が、精神障害者の悲惨な実態をこう語ったのは約90年前。「救済は人権問題で政府の目下の急務」と訴えたが、障害者政策を後回しにされ続けてきた。

 この国では、障害は社会のお荷物、特別なことで自分とは関係ない、という感覚があるのだろう。その結果、行政も政治も見て見ぬふりをしてきたのではないか。日本の障害者福祉の水準は先進国の中でも情けないほど低い。予算を飛躍的に増やしてほしい。

 自立支援法案には当初期待したが、今は危機感に変わった。年金や手当の充実などの所得保障、障害の定義や認定の見直し、サービスの基盤整備、という私たちが求めてきた三つの要素が落ちているからだ。

 政府は新障害者基本計画で「所得保障に取り組む」としたが、いっこうに進まず、障害者の多くは月額6万6200円の2級年金が主な収入。生活保護よりはるかに低い。所得保障が確立するまで、応益負担の導入は凍結すべきだ。

 グループホームやホームヘルプサービスなどの基盤整備を「ヒューマン公共事業」として実現してほしい。

 障害者の作業所に、うつ病になった教頭と会社員が通ってきたことがある。「ほっとする」「人生観が変わった」と話していた。障害のある人たちの暮らしの中には、年に3万人もが自殺するこの国を変えるヒントがあると思う。

キーワード:障害者自立支援法案

 「障害者が能力と適性に応じて自立した生活ができるように、必要な福祉サービスを提供し、安心して暮らせる地域社会の実現」を目的に掲げる。身体、知的、精神3障害のサービスを一元化。障害者の自己負担を所得に応じた「応益負担」から、サービスの利用量に応じた「応益負担(定率、原則1割)」に変える。所得に応じて上限を決め、最高で4万200円。施設利用者は食費などを自己負担する。


朝日新聞 2005.6.28(火)