●交通論壇

 北星学園大学助教授 島津 淳

「介護タクシー」と政策課題

要介護度軽減立証を

乗降介助の継続

 2006年度介護保険制度改正において、乗降介助は継続されることになった。10月4日付の東京交通新聞では、次のように報道されている。「全国乗用自動車連合会は1日、ケア輸送特別委員会を全国福祉輸送サービス協会・介護移動部会と合同で開催した。厚生労働の香取昭幸老健局振興課長が出席し、介護保険制度の見直しと要介護者の輸送にかかわる介護の課題について講演した。その中で同課長は2006年の介護保険制度見直しにあたって「乗降介助は残す」との考え方を示した」
 厚生労働省が乗降介助の継続を決断したことに、拍手を送りたい。道路運送等のリスクについて、国土交通省の十分な説明と努力があったものと推側する。

自立支援と乗降介助/課題

 現在、厚生労働省老健局は、2006年度介護保険制度見直しに向けて、保険給付の在り方を大きく変えようとしている。現行では、予防給付は要支援、介護給付は要介護1〜5を対象としている。改正後は新予防給付を創設し要支援・要介護1を対象、介護給付は要介護2〜5を対象とする。現行の乗降介助は、要介護1以上の利用者が介護タクシーの対象となっている。

 改正後は、介護給付が要介護2以上となるため、乗降介助の対象も要介護2以上が対象となる可能性もある。全国乗用自動車連合会(以下、全乗連と略す)や全国福祉輸送サービス協会(以下、全福協と略す)は、要介護1の利用者が乗降介助に基づき介護タクシーを利用した場合、利用者のケアの効果について、立証していく必要がある。

 このような地道ではあるが専門的な作業を進めていないと、社会保険審議会介護保険部会等で要介護1の利用者が介護タクシーを利用しても本人が楽をしているだけで、自立支援につながるケアの効果がほとんどない、逆に要介護度が悪化する要因をつくっているという報告が市町村会等の審議会委員から行われた場合、有効な反論は出来ないことになる。

 東京交通新聞によると、10月24日、全乗連は介護保険見直しに関する要望書を厚生労働省老健局に提出したという報道があった。要望書の提出は、厚生労働省内で介護保険制度改正大綱が作成されている時期であり、当を得たものと考える。しかし、全乗連としては自分たちの業界の領域を拡大することのみならず、介護保険制度の趣旨である自立支援と介護予防を理解する必要がある。特に介護タクシーの存在が要介護1の利用者にとって、要介護度の軽減に何が役立っているのか、介護福祉学の見地から事例をまとめられることを勧めたい。
 現在、厚生労働省は厳しい介護保険財政のなかで、いかに保険給付を抑えていくのかが最重要課題となっている。そのため、どの保険給付サービスが要介護度の軽減につながっているのか費用対効果が問われているのである。

乗降介助とサービスの質の確保

厚生労働省老健局は、2006年度介護保険制度改正に向けて、「情報開示の標準化」について検討を進めている。「情報開示の標準化」とは、9月14日、厚生労働省老健局が主催した「全国介護保険担当課長会議」資料によると「利用者によるサービスの選択を実効あるものとする観点から、全ての介護サービス事業所を対象として、当該事業所が現に行っている車柄(事実)を第三者が客観的に調査・確認し、その結果の全てを定期的に開示する仕組みの導入とそのための開示情報の標準化を進める必要がある」と述べられている。

 「情報開示の標準化」とは、事実上の第三者評価のことである。全国的に見ると、いまだ基準違反をしている介護タクシーが一部にある現実を考慮した場合、全乗連ないしは全福教は、タクシー会社に併設された訪問介護事業所のサービス提供責任者ないしは管理者を対象に幹部研修を行う必要があるものと考える。業界として、サービスの質を確保することは、自らの手で自分たちの領域を守るということにほかならないからである。

東京交通新聞 2004.12.13(月)