●ワーカーズ福岡

  タクシードライバー免許

  「特区」提案を検討

 タクシー乗務員の社会的地位向上と需給バランスを是正するには「タクシードライバー免許」の制定しかない―こう訴えるのは、ワーカーズコープタクシー福岡(福岡県粕屋郡志免町)の広瀬早美社長だ。同社は規制緩和の年、乗務員自ら雇用の場を創出、協働で事業の運営・労働にあたる全国初のタクシー会社として注目、個人でも法人でもない第3の道として業界に一石を投じ、来年で設立3周年を迎える。本紙は、広瀬社長に同社の歩みと今後の戦略をインタビューした。同社長は母体の自交総連福岡地連とともに、タクシードライバー免許を「特区」提案するか検討する考えを明らかにした。

 タクシードライバー免許を「特区」提案したい背景は。
「タクシーの営業形態は都市部と郡部とではまったく違う。郡部は会社が営業努力をしているが、都市部は個々の乗務員が営業マンだ。今、福岡交通圏でも増車により乗務員の質の低下が指摘されている。地理の不案内や接遇の悪化などだ。タクシーは街の顔で、一定の水準を維持する必要があるのではないか」

「以前、観光案内ができる乗務員を育成してほしいと福岡市長から言われたことがある。各自治体がその街にふさわしいタクシードライバーの基準を提示したらどうか。例えば、観光地であればタクシードライバーになるために文化や歴史に関する試験を課すとか。高齢化が進む地域では、身体介助の技術を問うとか。タクシードライバーのハードルを高くすることが、乗務員の生活を保障することにもなる。行政に対し、業界や労組は再規制を求めているが、実際難しいだろう。再規制するとなれば、既得権を行使しようと必ず駆け込み増車が起きる。沖縄がいい例だ。台数規制が不可能なら、乗務員数によって需給調整を図るしかない」

 労働者から一転、経営側にまわって、理想と現実にギャップはあったか。
 「現実は厳しいが、一歩でも理想に近づきたい。創業時は『オール50%、足切りなし』をうたっていたが、約1年後にこれを改めた。売り上げ30万で50%、40万で62・5%(25万)へ賃率を見直したが、頑張る人とそうでない人の不公平感が出てきたからだ。『もうひと走り運動』で日車営収は確実に伸びているが、それに比例して事故も増えた。労働運動で「刺激性の強い運賃は事故を誘発する」と主張してきたが、皮肉にもそれを実証する形となった。制度変更により、介護部門での収入も当てが外れた」

 新規事業者としての苦労は。
「知名度がないのは、圧倒的に不利だ。地縁関係は意外に根深い。そういう意味ではとても老舗(しにせ)にはかなわない。一人ひとりの乗客を大切にし、社名を覚えてもらう地道な努力を続けるしかない」

 達成した理想は。
「労働者協同組合の理念である合議制は現在も貫いている。侃々諤々(かんかんがくがく)あるが、他社にない活気と思っている。全車オートマチックの職場要求はかなえたし、有給の取り扱いも仮走営収を当てるなど他社にない取り組みも行っている。入社するには出資金が必要だが、乗務員が集まらないことはない」

 現在の組織規模は。
「同志45人と15台で営業を開始したが、118人46台になった。

 今後の増車予定は。
「今期15台増車せざるを得なかったが、今後は野上会長(福岡市タクシー協会)在任中は増車を控えたい。会長預かりとなっている部会加入問題でご迷惑をかけているので」

 独自のサービスは。
「運賃プラス500円で乗客が家から出す生ゴミなどを預かったりしている」

東京交通新聞 2005.8.29(月)