●日立自動車交通第二社長 佐藤 雅一氏

  “80条”対応はやめるべき

  補助も射程に青写真を描け

 ――タクシー事業者代表として練馬区の動きをどう受け止めていますか。
「区の真面目な取り組みは評価するが、大前提の話として80条ガイドラインによる対応を止めることをまず提起したい。80条とは青ナンバー事業者でできない緊急避難的な対応を認める条文。今のNPOボランティア移送を想定して作ったわけではない。セダン全国化を含め、この80条を恒常的に使おうという考えには無理がある。その無理の穴埋めを運営協で議論させられている形だ。人命を預かる輸送のよしあしを判断できるほど運営協に責任と権威があるのかと言いたい」

新たな法整備必要

 ――80条ガイドラインに変わる対応策は何ですか。
「新たな法整備が必要だ。青ナンバー事業者の立場からは、お金を取る白ナンバー有償運送を容認すること自体、賛成できない。国土交通省は年内に福祉輸送の新たな青写真を描く予定だが、白ナンバーも青ナンバーを取らせる方向で考えてほしい。白ナンバー有償運送は過疎地やタクシーがどうしても足らない地域に限り、他は4条事業者になってもらう。いきなり4条は難しいのでステップを設け段階的に取得する。もちろん4条では2種免許は必需品だ」

 ――練馬区の問題に絞りますが、区の先進的な動きをどう見ていますか。
「80条ガイドラインは幅広い解釈ができる。運営協で拡大解釈が可能な基準を作ると悪い事業者が参入してしまうおそれがある。申請時のチェックはできても、許可後のフォローはどうするのか。申請件数が増えれば、監査の専門委員などを置かないと対応できない。その結果、輸送秩序が乱れ、タクシー事業者はもとより真面目なNPOボランティアも困るし、一番困るのは利用者だ。こうして運営協の本来の目的である移動困難者の輸送をどうするかという問題からかけ離れた事態にならないか懸念する」

 ――区が踏み込んだ運賃2分の1の判断基準作りにどうかかわりますか。
「区が考えた『総額方式』は却下された。近距離ばかりの客は損して遠くばかりの客は得したりするこの方式は、利用者利便にはつながらない。個々の利用者がそれぞれのケースでタクシーの2分の1以内に収まっていると判断できる運賃を設定するべきだ。国交省通達ではその地域のタクシー運賃の上限の2分の1が目安となっているから、2分の1を上限にすればいい。区が提示した運賃表は総額方式を換算するための目安表だが、上限運賃の2分の1の目安の運賃表を作り、利用者がこのボランティアは高い安いと一目で分かるようにするとよい。『おおむね2分の1』の誤差の意味はせいぜい5%幅だろう。別途提示された『時間制』と『乗合』の料金は今後討議する課題だ」

 ――練馬区のケア輸送サービス事業者に事業者として要望はありますか。
「最初の協議で区に『今後の福祉輸送を青ナンバーと白ナンバーで担うことを認めるということなら、区の移動困難者に対する福祉輸送のグランドデザインはどう考えているか』とただしたが、何も決まっていないことが分かった。福祉タクシーを何台も借り上げ方式で予算化している自治体もあり、コストのかかる移動をどう補助していくかという問題まで射程に入れてほしい。注文ばかりでは申し訳ないが、タクシー事業者も福祉輸送に積極的に取り組んでいる姿をみせないと白ナンバーに席けんされてしまうことは確かだ」

東京交通新聞 2005.9.12(月)